最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)1438号 判決 1968年9月24日
上告人
杉田逸男
代理人
桜川玄陽
被上告人
白木四郎
ほか一名
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人桜川玄陽の上告理由第一点について。
上告人は昭和四〇年二〇日午後五時五〇分頃第二種原動機付二輪車(上告車)を運転して名古屋市中川区中京通を時速三〇粁で南進し、同通二丁目七四番地先にさしかかつたところ、東の方から東西に通ずる道路を西進して中京通へ出てきた一台の乗用車が上告人の前方約一五米地点で一時停車したので、それをかわすため、別段の合図もせず、ハンドルを右に切り、抛物線状に中京通の中央近くへ出て前進しようとしたが、その際上告人の背後方向から南に向つて時速約四五粁で進行してきた被上告人四郎運転の軽四輪貨物自動車(被上告車)の左側後部に自己の車の前部フオーク右側を接触させて転倒した旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。そして、右接触の前において、被上告車が上告車と並行する同一方向の進路を先行する乗用車に続いて直進していたことは原判文自体からうかがえるところであるから、上告人は前記一台の乗用車が中京通に進入しようとして一時停車しているのに注意を奪われ、右方および後方の安全を確認することなく、別段の合図もせず、ハンドルを右に切つたため、折しも後方から先行する乗用車に続いて上告車の右側を走行していわゆる追抜(原判文が追越といつているのは誤記と認める)態勢にはいつていた被上告車に上告車の車体を接触させたものといわなければならない。ところで、このように既に先行車に続いて追抜態勢にある車は、特別の事情のないかぎり、並進する車が交通法規に違反して進路を変えて突然自車の進路に近寄つてくることまでも予想して、それによつて生ずる事故の発生を未然に防止するため徐行その他避譲措置をとるべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当である。したがつて、本件事故はいつに上告人の過失によつて生じたもので、被上告人四郎の過失によつて生じたものではないといわなければならない。これと同一結論をとる原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。
同第二点について。
被上告人四郎は同英司の父親で、同英司から前記自動車を借り受けて自己の営業に常時使用していたもので、同英司は右自動車の運行自体について直接の支配力を及ぼしえない関係にあつたものである旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。
ところで、自賠法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者を意味するから、被上告人英司は右にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたらないものといわなければならず、この点に関する原審の判断は相当である。所論は独自の見解を述べるものであり、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)